——きれいにしたい”気持ちが、お仏壇を傷めてしまうこともあります——
お仏壇をきれいにしようとして、ついアルコールスプレーや家庭用洗剤を使いたくなることがあります。
ですが——それはお仏壇にとって、もっとも避けるべきお手入れ方法です。
お仏壇の表面は、漆・金箔・塗装といった天然素材でできています。
これらは化学薬品に非常に弱く、アルコールや洗剤に含まれる成分が、塗膜や金箔を一瞬で傷めてしまうことがあります。
拭いた直後はツヤが出たように見えても、数日後には白く曇ったり、金箔が浮いたりすることがあります。
毎日お参りして「手垢が気になる」「くすんできた」と感じることは自然なことです。
けれど、その“きれいにしたい気持ち”が、お仏壇を劣化させる原因になることもあるのです。
お仏壇は家具ではなく、“祈りの場”。だからこそ、使うものにも特別な配慮が必要です。
お仏壇の多くは「漆塗金仏壇」という伝統工法で作られています。
木地に天然漆を何度も塗り重ね、その上に厚さわずか0.0001ミリの金箔を貼って仕上げます。
この素材は呼吸するように空気中の湿度を吸ったり吐いたりしながら、ゆっくりと時を重ねていきます。
ところが、アルコールや洗剤は油分を分解して蒸発させる力があり、漆の「艶の膜」を壊してしまいます。
一度失われた艶は戻らず、表面が白っぽくなったり、金箔が浮いてしまうこともあります。
特に合成樹脂塗装(カシュー塗り)のお仏壇は、化学反応で白化・変色が起こるケースもあります。
つまり、「アルコールで汚れを落とす」は一時的な効果しかなく、
長い目で見れば漆と金箔を壊す原因になるのです。
やってはいけない掃除例
・除菌スプレーやアルコールティッシュで拭く
・食器用洗剤を薄めて拭く
・ティッシュやキッチンペーパーで乾拭きする
・メラミンスポンジで軽く磨く
これらはすべて、漆の塗膜を痛めたり、金箔を剥がしたりする原因になります。
乾拭きも摩擦熱で塗装を劣化させるため、特に金箔部分には触れないようにしてください。
正しい掃除・お手入れ方法
・柔らかい布を水で濡らし、しっかり絞る(ほとんど水分が残らない程度に)
・黒塗りでない木地部分を軽く押さえるように拭く
・拭いたあとは乾いた布で水分を吸い取る
・金箔や漆の部分は羽ぼうきや柔らかい筆で“払うだけ”にとどめる
ホコリを払うことと汚れを落とすことは違います。
“こすらない”“触れすぎない”——この2つを守るだけで、お仏壇の寿命は大きく延びます。
「シミのような跡が取れない」「金箔が少し剥がれてきた」——そんなときは、無理に拭かずに職人にご相談ください。
私たちは、お仏壇の状態を見極めながら、漆の呼吸を損なわないように一点ずつ手入れを行います。
金箔の密着や塗膜の厚みを確認し、必要に応じて専用の溶剤や筆を使って整えます。
目的は“見た目をきれいにすること”ではなく、“次の世代にも残せる状態に戻すこと”です。
ご家庭での「やさしく拭いたつもり」で剥がれるケースは非常に多く、
たった一拭きで十年分の輝きを失うこともあります。
焦らず、「今は触らない勇気」を持つことが、結果的にお仏壇を守る最善の方法です。
お仏壇は“磨く”ものではなく、“育てる”ものです。
アルコールや洗剤で一時的に輝かせても、それは自然の艶ではありません。
木や漆がもつ深みある光沢は、強い手入れではなく、穏やかな扱いの中で育っていきます。
「汚れを取るより、傷めないことを優先に」
この心がけこそ、何十年先まで祈りの場を美しく保つためのいちばん確かな方法です。
仏壇の修復に携わり三十余年。
金箔・漆・木地・装飾金具といった各工程を深く理解し、
一基一基に宿る「ご家族の祈り」と向き合いながら、
伝統技術を次の世代へつなぐことを使命として活動しています。
現場で培ってきた経験を多くの方に役立てたいという思いから、
金箔のお手入れ、修復の考え方、仏壇づくりの背景にある文化、
さらには職人としての日々の気づきまで、幅広いテーマのコラムを執筆。
「何をどうすれば大切な仏壇を長く守れるのか」を、
専門知識だけでなく、暮らしに寄り添う視点からわかりやすく伝えています。
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